2026/02/07 15:43


よく「お肉になる工程を見てみたいのですが」とお問合せをいただきます。
普段何気なく食べているお肉ですが、実際にお肉になる過程を見たことがある方はどのくらいいるのでしょう。
牛や豚でさえもどのように育てられお肉になっているか、知っている人もそんなに多くないのかなと思います。

今日はそんなお肉のお話について、daidai代表の斎藤ももこが書いてみたいと思います。

(1)育てたお肉と収穫したお肉
みなさんが普段よく食べている牛や豚などのいわゆる「家畜」のお肉。
我々野生動物のお肉を取り扱っている業界がお肉のことで保健所などに問い合わせると「家畜じゃないので・・・」というフレーズをよく使われて線引きをされますが、同じお肉であっても法的に家畜と定義されている動物かそうでない野生動物かでは対応は大きく異なります。

ではお肉としては動物種が違うでしょ!という当たり前のことに加え、何がそんなに違うのか、というと、まずは家畜は人が育てているという時点で大きく違います。
例えば、牛は繁殖農家さんのところで生まれ、生後10ヶ月で肥育農家さんの元へお引越しします。対馬では子牛がトラックで運ばれているのを見たことがある方もいらっしゃると思いますが、対馬はこの「繁殖農家」さんのいる島です。
その後様々な肥育方法で生後約30ヶ月まで肥育された後、食肉市場へ出荷され、牛肉へと加工されていきます。
豚は、生まれてから1ヶ月程で離乳し、その後生後6ヶ月(180-190日)で体重が約110kgになるまで農家さんが育て、出荷し、お肉になっていきます。(うちの息子は生後6ヶ月で10kgでしたが、その間に豚はその10倍の110kgに…すごい成長です。)
また、母豚は1度に10頭ほどの子豚を年間に2回ほど出産し、5〜8産するまで子供を産んでもらいます。
年に2回、合計8回も出産するなんて、きっと大変だろうなぁと、同じ母として、母豚にリスペクトです。

ちなみに鶏は出荷までがさらに早くなり、日本で一番流通されているブロイラーと呼ばれる肉用鶏は、親鳥から生まれた卵を21日間30℃以上で温めてふ化させ、生後約50日で約3kgまで成長すると出荷されます。たった50日であんなに美味しいお肉に成長してくれるのです。野菜よりもサイクルが早いってすごいですよね。

色々ざっと書きましたがあくまで一般的にはというお話で、牛も豚も鶏も、品種、飼育期間(何ヶ月でお肉にするか)、飼育方法(どこでどのように飼育するか、放牧するかなど)、与えている飼料(どんな餌を与えているのか)は、飼育されている牧場によって異なるため、肉質も様々です。なので、厳密に考えていくと、家畜のお肉であってもきっと肉質は農場の数だけ多様性があるといっても過言ではないかもしれないです。

調べれば調べるほど、たくさんの人々の胃袋を満たすために、安定して効率の良い量の食肉を生産するために、どれだけたくさんの研究と開発が行われたのだろうと、先人たちの努力に感服です。

一方、私たちが扱っている猪や鹿をはじめとする野生動物のお肉は、本来は都道府県に税金を納め、定められた狩猟期間に、狩猟して良いとされている動物を決められた数だけとって良いよ、というものです。今は個体数が増えすぎて、少しでも減らさないといけない!ということで、狩猟期間が延長されたり、それ以外にも有害鳥獣として捕獲するための許可が発行されていますが、いずれにしてもhunting(狩猟)であったり、harvesting(収穫)という、自然のものをいただく作業の中で獲得する産物です。

鹿のように外見(角の有無や角の大きさ)である程度雌雄や年齢を区別できることもありますが、家畜に比べると老若男女様々ですし、生息環境の影響をダイレクトに受けるため、お肉の状態も季節や場所によっては千差万別です。

(2)命がお肉になる場所
農家さんの手によって大切に育てられた家畜たちは、その後食肉センターに運ばれ、お肉になっていきます。
この時、ほとんどの家畜がと畜検査員である獣医師の3度にわたる厳しい検査を受け、安全なお肉だと確認されたもののみが物流に乗ってお肉屋さんに届けられ、スーパーや飲食店に運ばれ、皆様の口へと入っていくのです。


「獣医さん」と聞くと犬や猫のお医者さんのイメージが強い方もいると思いますが、実はこのように皆さんの食の安全を守るための大事なお仕事、畜産業の基盤を支えるとても大事なお仕事もあるのです。

食肉センターによっては見学ができるところもあり、私たちも猪や鹿のより衛生的なお肉作りを学ぶ上で、何度も各地の工場にお世話になりました。(一番多く見学させていただいたのは下記の福岡食肉市場)
さて、一方で、私たちが扱っている野生動物のお肉は、農家さんが育てるわけではなくハンターさんが捕獲・収穫してきたもの。
なので、野生動物はと畜場ではなく、食肉処理施設へと搬入され、お肉へと変わっていきます。

ちなみに野生動物は必ず施設に搬入しないとお肉にできないわけではなく、お肉として販売したり不特定多数に提供する場合は保健所の許可をうけた施設で衛生的にお肉にする必要がありますが、自家消費するお肉については施設で捌く必要はありません。
つまりは、技術と知識さえあれば、野生動物はお肉の自給が可能という、家畜にはない魅力もあるのです。


(3)命がお肉になるまで
このように施設へと運ばれたお肉は、家畜も野生動物も同じく、一頭一頭人の手によってお肉に変わっていきます。

牛や豚はそもそものサイズが大きく(牛は750kgくらい、豚は110kgくらい)、1日の解体頭数も多いので、かなり機械化されており、自動の昇降機に乗って、大きなナイフやチェーンソーなどを使って作業をされています。

一方猪や鹿は、私たちの施設での実績ですと、小さいものは18kg、大きいものは135kgまでと個体差が大きく、また体格がみんなそれぞれ(ボンキュッボンなものもいれば、ボンボンボーンな個体もいる)なので、機械化できずナイフ一本で最初から最後まで切り進めます。

では、私たちはどのようにしてお肉を作っているかというと、

まずは体表を洗って、ナイフを入れる部分を熱湯で湯むきします(高い温度のお湯で毛を抜いて異物が肉面につくのを防ぎます)
イノシシも剛毛の毛を抜くと白く綺麗なお肌が見えてきます。

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食道と肛門を結束し、内臓を摘出します。(胃内容物が逆流したり糞便が落ちて肉面が汚染するのを防ぎます)

包丁の先端に玉がついたナイフで内臓が傷つかないように気をつけながら作業します。
そしてあとは、ひたすら体表の汚れがお肉につかないように気をつけながら皮を剥ぎます。

枝肉になったら素早く細菌が増えないような環境(低い温度の冷蔵庫)に入れ、死後硬直が取れると言われる90時間が経過するまで保管しておきます。

保管後、骨を外し、ブロック肉、スライス肉、ミンチ肉などの精肉にしていきます。

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文字で書くとこのレベルですが、捕獲するまでの時間に加え、解体処理(早いもので1時間、大きいものだと2〜3時間)、予冷(最低でも約4日間)、カット作業(1頭終わるのに大体半日から1日)、さらにスライスやミンチにしていくと考えると、一頭の猪や鹿がお肉になるまで、かなりの時間がかかります。

先日も解体の見学にいらしたシェフから「想像以上に大変なんですね」とコメントいただきましたが、ネガティブな意味で大変とは思っていませんが、お肉作りもとてもたくさんの手間がかかっていることは間違いありません。(お肉を育てている畜産、お野菜を育てている農家さんならばなおさらの手間がかかっていることでしょう)

食べるのは一瞬ではありますが、食べるまでにたくさんの方のたくさんの協力と努力があって、一つの食材ができていることはどの食材を取ってみても間違いないことだと思います。

だからといって「も・・・申し訳ない・・・!」「命が可哀想だ・・・」と思って食べて欲しいわけではなく、一人でも多くの方に、その工程を知ってもらった上で、晴れやかな気持ちで、美味しく食べていただけたら最高だなと思うのです。

私も自分でお肉作りをしているからこそ、大変さと尊さをみに染みて感じているので、是非みなさんもお食事の際は、張り切って、愛とリスペクトを込めて「いただきます!」と言って、今日も美味しくご飯を食べていただけたら嬉しいです。

今日に至るまで、いくつものと畜場を見学させていただく中で、日頃食べているお肉がどのようにして作られたのか、その作業の大変さと職人さんたちの手捌きの美しさに感動しました。
私も同じ食肉の業界に携わる立場として、もっとお肉のことや食のことを、猪や鹿であればその背景にある様々な問題について知るきっかけを作ったり、その解決方法としてお肉を食べる人、お肉を作れる人を増やしたいと思い、見学や体験ができる工場を昨年作りました。

食が作られる場所から食べる場所までが複雑化していて、なかなか日常の食から命を想像したり、一皿のお料理の尊さに気付く機会が少なくなっているからこそ、我々のように野生動物をお肉に変える活動をしているところがその場面を見せたり、伝えたりできる部分で貢献できるのではないかと思うのです。
みなさま是非対馬にいらした際は、命がお肉になるところを見にきて、体験してみてくださいね。